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2024年7月10日、参院議員会館講堂で、「とりもどそう 立憲主義と平和憲法」と題して市民集会が開かれました(安保法制違憲訴訟全国ネットワーク、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会が共催)。
東戸塚9条の会からは4人のメンバーが参加し、貴重な知識と刺激を持ち帰ることができました。
以下は、同集会で伊藤真弁護士が行った基調講演(約30分)の骨子です(会場で配布されたペーパーの内容を許可を得て掲載)。
カッコ内の時間表示(分:秒)は上のYouTube動画に対応しています。
「解釈改憲」後の10年を検証する
安保法制違憲訴訟が暴いた戦争法の実態
そしてこの国のあるべき未来
伊藤真(弁護士)
司会者による伊藤弁護士の紹介(9:20)
伊藤弁護士による基調講演開始(9:47)
1―― この訴訟の意義と到達点(12:00)
反対の声がある中でなぜ提訴したか、そして到達点と課題を確認
(1)安保法制違憲訴訟の意義と獲得目標(12:15)
《意義》
① 暗黒の戦争の時代を繰り返してはならない。 日本の平和と立憲主義を守り知性を取り戻す。
② 原告らを重大な人権侵害から救済し、国の政策を追認する裁判所の在り方を根底から問い、三権分立の一翼を担う司法の役割を裁判官に自覚させる。
③ 人間の尊厳と人権を無視し続ける自民党政権に抗い闘っていく国民運動の一環として位置づける。
《獲得目標》
i 安保法制の法令違憲判決(集団的自衛権行使は違憲)による勝訴
ii 理由中での違憲判断
iii 最高裁に合憲判決を出させない
(2)到達点と課題(13:45)
《到達点》
党派性に縛られることなく、空前の規模で多様な国民・市民が立ち上がり支えてきた。
国民は受け入れていないことを示し続けることができた。読売新聞の世論調査4/8
裁判を通じて、裁判官にその役割を訴え続けることができた。
学者、元最高裁判事、元内閣法制局長官などの声を残すことができた。
決して権力の側が一枚岩ではないことが示せた。山本庸幸著 回想録(14:50)
判決には反映されなくても、心に響いた裁判官もいるはず。
法令違憲判決なし しかし、明確な合憲判決も出させていない。
裁判所との対話による議論の深化
予防原則、相関関係論、憲法判断は裁判所の裁量、横浜地裁判決
《課題》(17:00)
① いわき訴訟仙台高裁判決の程度で一定の評価を受けるという誤った理解が極めて不当な神奈川訴訟東京高裁判決(2024.6.14)の付言を生んでしまったのではないか。
《いわき訴訟仙台高裁判決(2023.12.5)》
「政府が国会に対して厳格かつ限定的な解釈を示した答弁をしたことが、憲法の平和主義と民主主義の理念に基づき、今後の政府の行動において、憲法上の重みを持ってしっかりと守られるべきものであることを前提とすれば、そのような解釈運用の不確実性があるからといって、平成26年(2014年)閣議決定による政府の憲法解釈の変更やこれに基づく平和安全法制が、憲法9条1項の規定や憲法の平和主義の理念に明白に違反するとまではいえないというべきである。」(24頁)
確かに、仙台高裁判決は、さらにそれなりに原告代理人らの主張との対話に応じてもらえた。運用違憲の可能性を指摘し、 事実上、集団的自衛権行使を封じたともいえる。しかし、将来、運用違憲を阻止する重要な判例として機能することはあるとしても、現時点において評価することはできない。
i 政府が厳格な要件を遵守することを前提にしている点で、政治部門への抑制がきかない。政府の判断でどうにでもなる。現実には米国の判断に追従するであろう。現実の政治の現場の危険性に対する警戒感がない。
ii 集団的自衛権行使を一部でも認めているため、安保法制そのものは存続することになる。米国との軍事一体化が積極的に進められている現状に対する歯止めにならない。軍事同盟政策への転換が追認されてしまった。その結果、敵基地攻撃能力の保有、他国領土攻撃のための装備品など9条2項違反の問題が放置されてしまう。
iii 集団的自衛権を行使させなければよいという話ではない。現在進行中の主権者の意思を無視した形での「国のかたち」の変容(憲法96条違反)を放置することはできない。
《神奈川訴訟東京高裁判決(2014.6.14)》(19:15)
石川健治東大教授の証人尋問でも裁判長が積極的に補充尋問をしていたこともあり期待していたが、その裁判長が定年目前、判決3週間前に依願退官し、その前に右陪席裁判官も依願退官し、結審時の裁判体を構成する裁判官は左陪席裁判官のみという異常な状態での判決言い渡しであった。
「憲法適合性の判断が、本件各請求の当否を判断する上で論理的な前提となっているということはできず、前記説示のとおり法令の解釈適用のみにより事件の結論を出すことができる事案であり」、「現時点においては、当裁判所において憲法判断を行う必要性、相当性があるということはできない」と判示。
ところが「集団的自衛権といってもその内容は一義的ではなく」として、本件閣議決定における「武力行使の新3要件という限定的な要件」や、「厳格かつ限定的な解釈を示した国会答弁」などを踏まえると、「本件各行為によって集団的自衛権の行使がそのような要件を充足する限定的な場合に限って容認されることになったとしても、憲法9条や平和主義の理念に明白に反し、違憲性が明白であるとの判断をすることは困難であるというほかない」、本件閣議決定による政府の憲法解釈や安保法制が、「憲法の平和主義の理念や憲法9条に明白に違反するとまで言うことはできない」などと判示。
安倍元首相の国会答弁のみに依拠して何の論証もなく、違憲の明白性を否定した。政治部門の判断を追認して政治的に擁護しただけの判決であり、法的論理性も法的安定性もない判断。司法の役割を完全に放棄してしまった。深刻な司法の危機といえる。
→判示された内容は国の代理人が主張するようなものであり、裁判所としての役割を全く果たしていない。少なくとも安全保障問題に関しては「今はなき裁判所」
② 国との議論ができないことから裁判所への一方的な主張となり、判決が出て初めて裁判所の考えが明らかになるため、十分な対話とならない。
③ 一部訴訟を除き原告団の組織化・相互連絡、弁護団の全国的な協力体制が不十分。
④ 裁判官も法律家なのだから安保法制の明白な違憲性は当然であろうという誤認。
→裁判官が独立した法律家ではなかった。内閣法制局以上に罪深い。
2 ――改めて安保法制閣議決定と法制化の5つの大罪(22:45)
昨今の岸田政権による憲法無視の非立憲政治
内容において憲法を無視
憲法9条無視、13条軽視、20条軽視、23条軽視、25条軽視
手続において非民主的手法
議会制民主主義の手続を軽視
閣議決定を先行させ国会における実質審議を軽視、説明先送り
憲法改正国民投票法(手続法)の欠陥を放置しての改憲意欲
インターネット広告規制、資金規正、最低投票率等、非人口比例選挙による正統性
昨今の岸田政権により当初想定した以上の安保法制の罪深さが明らかになった。
集団的自衛権行使を閣議決定によって容認してしまったことによるこの国の変容
専守防衛と安心供与政策を放棄し、国家総動員体制への引き金となった。
集団的自衛権が他国防衛を本質とすることから様々な問題が生じている。
(1)軍事同盟政策へ逆戻り(24:00)
日米軍事一体化の促進 頻繁な軍事訓練 NATOとの協力関係強化
2020年第5次アーミテージレポートがいうように 「相互依存」のレベルに
同盟のジレンマに陥っている(同盟国の戦争に巻き込まれる危険の増大)
集団的自衛権・軍事同盟は武器の共有を不可欠とするため、武器輸出解禁
殺傷兵器の最たる戦闘機共同開発輸出、ミサイル・弾薬のライセンス生産
集団的自衛権が他国防衛である以上、日本領域外における武力行使を当然に伴う
敵国攻撃能力の保有は10年前から当然に含意されていた
南西諸島の軍事要塞化
米国のための対中国最前線基地 「台湾有事は日本有事」の拡散
対米従属による日本の国家としてのアイデンティティの喪失
平和国家、専守防衛、安心供与、異質な他者との共存をめざす外交
(2) 外交への悪影響(26:10)
同盟政策により米国の敵が日本の敵となるため、日本の外交の選択肢が狭まった
中国、ロシア、北朝鮮、アラブ諸国との関係悪化を招く
世界の分断に拍車をかける悪影響
グローバルサウス、いわゆる権威主義国との関係悪化の懸念
(3)自衛隊の軍隊化(旧軍の復活)(26:35)
帝国軍隊(皇軍)との精神的連続性
警察予備隊は旧軍出身者が過半数を占めていたが、あくまでも国内治安維持部隊であったはず。
それが専守防衛を経て、他国で武力行使する軍隊へと変容→自衛隊の違憲性が明確に
死亡した自衛官を顕彰するための靖国神社を精神的支柱にする動き
旧軍と変わらぬ閉鎖対質とパワハラ・セクハラ
自衛官募集の際の個人情報不正利用
ジェンダーの軍事利用(自衛官募集ポスター、広報活動)
力がものをいう社会の肯定へ
(4)安保3文書による軍事優先国家(国家総動員体制)への変貌と国民の負担増大(28:30)
従来と比較にならないほどの軍事費負担 国民生活の圧迫、地方自治への影響
安全保障のジレンマによる緊張関係の高まり、国民生活の不安増大
予算、税負担、産業、学術研究(学術会議法人化問題)、民間空港・港湾軍事利用
(5)理念としての立憲民主主義への悪影響(29:35)
ア.「立憲」民主主義
憲法に従うといいながら、憲法を無視する態度
憲法からの切り離し 青井教授の指摘
非立憲政治が常態化 佐々木惣一(30:00)
国民の無関心、憲法の軟性化が進む(53条訴訟)
他方で国民が望まない改憲を進めようとする態度
イ. 立憲「民主主義」
国会が民意を反映して統一的国家意思形成を行う場でなくなっている。
実質審議しない国会
ごはん論法、短い審議時間、かみ合う議論をしない はぐらかし
丁寧に説明するといって何もしない。
閣議決定ですべて決める手法
有識者会議の諮問→報告書→閣議決定→米国と合意→国会で強行採決
しかも情報公開しない。
安保法制、国葬、安保3文書、武器輸出
3 ――これらを許してしまう土壌としての国家ガバナンスの不在(32:00)
(1)非人口比例選挙による国会議員主権(32:10)
2021年衆議院選挙 自公47%の得票で63%の議席
2022年参議院選挙 自公46%の得票で59%の議席
まずは参議院11ブロック制で主権を国民に取り戻せる。野党共闘による政権交替。
(2)非立憲的な政治部門に対するカウンターとしての司法の機能不全(33:00)
裁判所は人権保障機能のみならず憲法保障機能を果たすべきはず。
人権保障の一部を担うことへの言い訳か、国民の声を聞いたということか
安保法制に関しては、日本の司法の絶望的な状況が明らかになった。
「違憲性が明白であるとの判断をすることは困難」とする裁判官の存在。
官僚司法、裁判官の意図的人事、司法制度改革の積み残し
4 ――必要なこととなすべきこと(34:00)
(1)司法の機能不全が明らかになったが故に、国民運動との連携の重要性が一層増した。(34:10)
司法も国民意思を背景にすること
政治部門による政権交代によって司法を健全化する必要
(2)絶望するからといって諦めることはできない。(34:40)
安保法制を廃止させ平和国家を取り戻すまで諦めない。
敗訴判決はけっして運動の負けではない。
諦めたらそこで終わり。どこまでも諦めずに声を上げ続けることが重要
(3)訴訟は誰かが訴え提起しなければ始まらない。(35:35)
裁判所に判断のチャンスを与え続けること
政治部門に対するカウンターとしての役割を発揮する機会を提供する必要
憲法制定の目的と国民・市民の責務の確認(36:00)
前文(われらとわれらの子孫のために、再び戦争の惨禍が起こることのないようにするために)、12条、生命・自由・幸福追求権の保障、プロセス重視
9条、13条の理想に向かって行動する日々の過程が重要(憲法は未完のプロジェクト)。
市民の主体性、自立性、成長こそが重要 その松明となる運動を、訴訟を継続する。
残された訴訟において、そして今後の個別訴訟においても、原告の具体的な被害、苦痛をしっかりと伝えて、立憲主義を取り戻す覚悟が必要なことを裁判官に自覚してもらう。
付随的違憲審査制だからこその優位性を活用し、具体的に裁判官に伝えることができる。
忘れてはいない、 決して許さない、そして絶対に戦争させない(38:50)
このことを国民運動と連携して訴え続ける。
過去の日本の戦争、ウクライナ、ガザの戦争から教訓を得て、平和憲法の理念を活かすことこそが、この国にとって最も現実的な未来であることを訴え続けていかねばならない。(40:00)